「三体Ⅰ」のあらすじと感想(ネタバレ)|ヒューゴー賞受賞した超弩級のSF小説!

「三体Ⅰ」のあらすじと感想(ネタバレ)|ヒューゴー賞受賞した超弩級のSF小説!

本・マンガのお得情報

小説やマンガをお得読みたいならBOOK☆WALKER「読み放題」サービスがおすすめです!
「ゆるキャン」など有名な作品が読み放題に入ってるので結構お得です。(角川の本が対象です)

三体Ⅰとは

「三体Ⅰ」とは、著者の劉慈欣(りゅうじきん)による、超大作SF小説です。

全三部作で、世界で権威のあるSFやファンタジー賞「ヒューゴー賞」を受賞した作品です。アジア人として初らしいので、快挙ものですね!
実際ブームの後押しはオバマ元大統領で、彼は「三体」のファンだそうです。(オバマ元大統領もSF読むんだな…)

ちなみに未読の方は、この記事やあらすじを一切読まずに本作品を読んでください。(絶対ですよ!)
ぜひ物語のスケールの大きさ、面白さを体感していただきたいです。

今回は「三体」のあらすじと個人的な感想を語っていきたいと思います。ネタバレしちゃいそうなので、ご注意ください。



三体Ⅰのあらすじ、登場人物の相関図

あらすじ

物理学者の父を文化大革命で惨殺され、人類に絶望した中国人エリート女性科学者・葉文潔(イエ・ウェンジエ)。

失意の日々を過ごす彼女は、ある日、巨大パラボラアンテナを備える謎めいた軍事基地にスカウトされる。
そこでは、人類の運命を左右するかもしれないプロジェクトが、極秘裏に進行していた。

数十年後。ナノテク素材の研究者・汪淼(ワン・ミャオ)は、ある会議に招集され、世界的な科学者が次々に自殺している事実を告げられる。

その陰に見え隠れする学術団体〈科学フロンティア〉への潜入を引き受けた彼を、科学的にありえない怪現象〈ゴースト・カウントダウン〉が襲う。

そして汪淼が入り込む、三つの太陽を持つ異星を舞台にしたVRゲーム『三体』の驚くべき真実とは?

本書に始まる《三体》三部作は、本国版が合計2100万部、英訳版が100万部以上の売上を記録。
翻訳書として、またアジア圏の作品として初のヒューゴー賞長篇部門に輝いた、現代中国最大のヒット作。

第一部の「三体Ⅰ」は、物語の序章です。SF要素は本当にぎりぎりまで登場しません。
そして最後に水面下に潜んでいた真実が突如明らかになります。この展開が非常に面白かったです。

女性科学者・葉文潔の過去を辿りながら現代へと物語が紡がれていく中で、水面下に少しずつ物語の全貌がわかるように仕掛けが施されています。

SFと思いきや、ミステリーやエンタメ要素も含まれていて、SF苦手でも面白いと思う作品になってます。
特に良かったのは、めちゃくちゃ読みやすいところです。

本作は、日本語訳されたものを大森望さんが更にSF用に翻訳しているので、非常に理解しやすい言語になっています。恐らくこんなにも読みやすいのは、大森さんの功労だと思います。

登場人物

ここでは主要人物と相関図をご紹介します。(中国語の読み方だとわかりにくいので、あえて日本語の読み方にしています)

三体Ⅰの相関図

■過去編
葉文潔(よう ぶんけつ):天体物理学者、葉哲泰の娘
葉哲泰(よう てつたい):理論物理学者、大学教授
紹琳(しょうりん):物理学者、葉哲泰の妻
葉文雪(よう ぶんせつ):葉文潔の妹、紅衛兵
雷志成(らい しせい):紅岸基地の政治委員
楊衛寧(よう えいねい):紅岸基地の最高技術責任者、葉哲泰の教え子

■40年後
汪淼(おうびょう):ナノマテリアル開発者
楊冬(ようとう):宇宙論研究者、葉文潔と楊衛寧の娘
丁儀(ちょうぎ):理論物理学者、楊冬の恋人
史強(しきょう):警察官、作戦司令センター所属。大史(ダーシー)と呼ばれている
常偉思(じょう いし):作戦司令センターの陸軍少将
申玉菲(しん ぎょくひ):物理学者、科学フロンティアの会員
魏成(ぎ せい):申玉菲の夫。引きこもりでヒモ、数学の天才
藩寒(しゃ ずいさん):生物学者、科学フロンティアの会員
マイク・エヴァンズ:多国籍石油企業SEOの御曹司

理系じゃなくても「三体」は読める

よく「1巻は読みにくい」いう感想を持つ方がいらっしゃいます。

たしかに読者初心者は途中で挫折しちゃうだろうな〜と思う内容でしたが、そういう場合は読み飛ばしてもなんら問題ないと思います。(もちろん理解できたら更に面白いと思いますが)

ちなみに私は超文系です。物理学や数学、天文学の詳しい知識は一切ありませんので、詳しい説明のところはサラッと読んだ程度です。
それでも物語は理解できるので、ぜひ機会があれば読んでほしいなと思います。



三体Ⅰの感想(ネタバレ)

この作品はぐいぐいと読ませてくる小説で、かなり面白く読めました。
最近はSF読んでなかったのですが、久しぶりに超弩級のSF展開が入ってきてドキドキしました。

面白いことに、この作品はどの登場人物にも感情移入ができませんでした。
自分が考えているよりも高次元のやり取りだったということもありますが、やはり誰もが理想家なので今の自分には感情移入できなかったのかなと思います。

ギリギリ史強(しきょう)だけがホッとする存在でした。
以下からはいくつかの項目に分けて語ります。



三体Ⅰの感想(ネタバレ)

過去編(1967年〜)

文化大革命について

冒頭の文化大革命で、葉文潔は自分の父親が理不尽な罪で殺されたのを目の当たりにします。

文化大革命は、毛沢東思想の青年集団「紅衛兵」が中心となって暴れまわったのですが、その中でも古い思想・文化・風俗・習慣をなくそうと、学者の吊し上げを行っていました。
それに葉文潔の父に白羽の矢が立ってしまい、紅衛兵に殺されます。

冒頭から凄惨なシーンで始まり、しかも思想が相容れないだけで殺されるという意味が分からない場面に手に汗握りました。

この後の物語展開を考えると、とても重要な一幕だったのではないかと思います。

余談ですが、この革命のせいで国の文化発展が遅れたそうです。
なんともやりきれない出来事ですが、この作品を通じて歴史的出来事を知れてよかったです。

葉文潔は「沈黙の春」と出会う

父を無残に殺された後、絶望していた葉文潔は運命的な出会いを果たします。
それは白沐霖(バイムーリン)青年から「沈黙の春」を受け取り、そこで一つの考え(以下の文)にたどり着きます。

…つまり、人類のすべての行為は悪であり、悪こそが人類の本質であって、悪だと気づく部分が人によって違うだけではないのか。
人類がみずから道徳に目覚めることなどありえない。(「三体Ⅰ」p.29より)

この時の葉文潔は冷静だったようですが、「沈黙の春」だけで上記のような考えになるのは、いささか偏りすぎで感情に振り切っているような・・・というのが個人的感想です。
正義と悪だなんて、それこそ感情がある生き物しかそういう考え方をしないですし、なんだかツッコミどころ満載でした。

しかし、彼女にこの思想ができたことでついに物語が動き始めます。



三体Ⅰの感想(ネタバレ)
現代編(2007年〜)

汪淼(おうびょう)に起こる謎のカウントダウン

一人の女性の凄惨な過去の後に時代が飛んで、2007年の話になります。
世界各地で科学者の自殺が相次ぐ中、ナノマテリアル開発者の汪淼がある時、謎の現象と出会います。自分が撮った写真に何故か小さな文字列が記されているのです。

それが何かカウントダウンだと知った彼は、すぐさま知り合いの申玉菲に相談しにいきます。

この現代編はひたすらミステリちっくに物語が進んでおり、舞台裏で起こっていることが一切見えてきません。


・科学者は何故自殺するのか?
・汪淼の身に何が起こっているのか?

この謎は後半まで明かされませんが、非常に面白かったセクションです。

VRゲーム「三体」とは?

作中では、汪淼が自分の身に起きたカウントダウンの謎を見つけるために、「三体」というVRゲームを始めます。

ぶっちゃけ、このゲームも読みづらいと言われる一因だと思いますが、何故か不思議な魅力があります。

汪淼が何度かログインし、そこで色々な人たちの思想や文化・三体の環境などを知るんですが、知識人しかそのゲームをクリアできません。

面白いことにその仮想世界には太陽が3つあり軌道が読めないため、その世界に住む住人にとっては過酷な環境でした。
VRゲームを通じて汪淼が試行錯誤するのですが、毎回必ず「乱紀(極寒と灼熱の気候)」が来て文明が崩壊します。

しかし「恒紀(=緩やかな気候)」が来れば、その世界の生命体は復活します。(この世界の生命体は、死=脱水、生=再水化)

このゲームセクションは最初読んでいてさっぱりわからなかったのですが、読み進めていくとふと何かを隠喩していることに気づきます。
それがわかった時がめちゃくちゃ面白く読めました。
二度目もゲームの部分だけ読んだのですが、その世界の人たちがみんな太陽の軌道について悩んでいて、興味深かったです。

ちなみにこのゲームは、「三体問題」というテーマを取り扱っています。
宇宙にある3つの天体の「運動」が未だに解けない、という問題のことです。
物語中でも、VRゲームでの登場人物たちはみんな解けませんでした。

果たしてこの問題はどう着地するんでしょうか。一番気になる部分でもあります。

葉文潔(よう ぶんけつ)について

結局、三体Ⅰにおける一番のキーパーソンは彼女でした。

憎らしいことに、楊冬(ようとう)の母親だなんて考えつかなかったので、途中で登場した時は少し驚きました。
ただ、なんで家名(葉)をつけなかったのだろうというのが疑問です。2巻から彼女に触れられることはあるのでしょうか。

また、紅岸基地についてまだ明かされていない事柄が何かある気がします。
というか雷志成と楊衛寧が亡くなって、周りは不思議に思わなかったのでしょうか。しかも楊衛寧に感謝しているとか言いながら、彼女は矛盾した行動を取っていたのでわけわかりません。

文化大革命のときは非常に可哀想でしょうがなかったのですが、紅岸基地での展開では、葉文潔のことが理解できませんでした。未知との出会いで変わってしまったんでしょうね。

果たして2巻はどうなるのでしょうか。早く読みたいと思います!



まとめ

個人的に初めてSF小説を読んだのですが、SFと言うわりにはエンタメ要素があったので結構読みやすい作品でした。
ただ、専門的な言葉が出てくるとちょっと難しかったのですが…

これを天文学や物理学?の読者が読んだらどう評するのか、聞いてみたいです。

恐らくここまでのヒット作品は久しぶりだと思うので、ぜひ機会があれば読んでいただきたいです。