
百鬼夜行シリーズとは
百鬼夜行シリーズとは、著者の京極夏彦のデビュー作「姑獲鳥の夏」を初刊としたミステリー小説です。
第二次世界大戦後の日本にて、古本屋兼憑物落とし(つきものおとし)をやってる中禅寺秋彦が奇怪な事件を紐解いていくミステリシリーズです。
毎回ある妖怪をテーマとしているんですが、その妖怪の成り立ちや伝説、派生などといった民俗学についても説明されています。
重厚なミステリに加えて、幅広い民俗学のウンチク。そのため各単行本はかなりのページ数、厚さになっています。(鈍器になるくらい…)
本の厚さから読むのを躊躇う方がいらっしゃると思いますが、ウンチクを抜きにしてミステリ小説の部分だけでも抜き出して読んでほしい!と思ってます。
それほど面白いシリーズです。今回は京極夏彦さんの百鬼夜行シリーズをご紹介します。
百鬼夜行シリーズの登場人物
このシリーズに多くの登場人物がいるんですが、その中でも主要な人物である4人
憑物落としの中禅寺 秋彦
このシリーズでの探偵役の、中禅寺 秋彦(ちゅうぜんじ あきひこ)です。
凶相と言われる顔の持ち主。かなりの博識な人で、皮肉屋で詭弁家(きべんか)。周りの人達は彼に口では勝てないくらいです。(奥さんはどうかわかりません 笑。)
口ぐせは、「この世に不思議なことなど何もない」と言うほど、超現実主義です。
中野で「京極堂」という古本屋を営んでおり、家業の「武蔵晴明神社」の神職もやっています。そして裏家業として「憑物落とし(つきものおとし)」もやってます。(色々やってますね…)
憑物落としとはいわゆるシャーマン的なことをやるんですが、彼の場合は言葉で人間の憑き物を落とします。
物語では、事件を解決に導くのではなく、事件の真相を紐解いていくことをします。どちらかというと現実の姿を見せる、という感じでしょうか。
憑物落としをする時の正装があって、全身黒ずくめの着物で挑みます。
小説家の関口 巽
このシリーズの視点は彼、関口 巽(せきぐち たつみ)です。
小説家で、純文学を書くのですが、一方でカストリ雑誌(エログロが多い、娯楽雑誌のこと)にも事件をベースに投稿したりしています。
常時うつ病に悩まされています。対人恐怖症もあるので精神が大分不安定です。そしてとても影響をうけやすい性格。
彼の視点で物語が描かれるので、途中「大丈夫か、この人…」と思う時があるかもしれません。
しょっちゅう京極堂に赴いて、中禅寺にいろいろ相談したりしています。
木場とは戦時中の部下の一人。一応関口さんは将校として戦っていました。
探偵の榎木津 礼二郎
自分の探偵事務所「薔薇十字探偵社」を設立した、探偵の榎木津 礼二郎(えのきづ れいじろう)です。
外見は眉目秀麗、頭も良く運動神経が抜群というスーパー人間ですが、躁病(そうびょう)を持っています。爆弾みたいに騒がしい人物です。
しかも彼は旧華族という、貴族階級でした。父が元子爵という中々高貴な地位なので、彼の家はお金持ちです。
彼の特殊能力は、「他人の記憶が視える」ことです。事件の調査は一切しないで、その場にいる人間の記憶を視て判断します。
ただ視るだけなので、その記憶に対しての背景や事情などは一切わかりません。びっくりするほど場をかき回すだけなので、やっぱり爆弾みたいな人です。
中禅寺と関口は高校の後輩。木場とは幼なじみ。
本編ではサブキャラですが、番外編では彼がメインの話があります。めちゃくちゃ笑えるのでぜひご覧ください。(百器徒然袋シリーズ)
刑事の木場 修太郎
本シリーズの事件にたくさん登場する、東京警視庁捜査一課の刑事、木場 修太郎(きば しゅうたろう)です。
「鬼の木場修」と呼ばれるほど、善悪の信念を持って行動する無頼漢。職務違反とか普通にする人物です。
大の酒・喧嘩好きで、榎木津とは挨拶がてら喧嘩をするほどです。すぐに手が出ます。
しかし内面はナイーブな性格でロマンチストな一面も持っています。2巻の「魍魎の匣」ではそんな木場修が見れますので、裏の見どころとも言えます。
百鬼夜行シリーズの読む順番
基本的に、長編は出版順に読んでいただきたいのですが、飽きたら「百器徒然袋」を読むと気晴らしになります。
番外編になりますが、コメディな話となっていますのでおすすめです。
No. | タイトル | 出版年 | 長編/連作小説 |
---|---|---|---|
1 | 姑獲鳥の夏 | 1994 | 長編 |
2 | 魍魎の匣 | 1995 | 長編 |
3 | 狂骨の夢 | 1995 | 長編 |
4 | 鉄鼠の檻 | 1996 | 長編 |
5 | 絡新婦の理 | 1996 | 長編 |
6 | 塗仏の宴ー宴の支度 | 1998 | 長編 |
7 | 塗仏の宴ー宴の始末 | 1998 | 長編 |
8 | 百鬼夜行ー陰 | 1999 | 連作小説 |
9 | 百器徒然袋ー雨 | 1999 | 連作小説 |
10 | 今昔続百鬼ー雲 | 2001 | 連作小説 |
11 | 陰摩羅鬼の瑕 | 2003 | 長編 |
12 | 百器徒然袋ー風 | 2004 | 連作小説 |
13 | 邪魅の雫 | 2006 | 長編 |
14 | 百鬼夜行ー陽 | 2012 | 連作小説 |
15 | 今昔百鬼拾遺ー鬼(今昔百鬼拾遺ー月) | 2019 | 長編 |
16 | 今昔百鬼拾遺ー河童(今昔百鬼拾遺ー月) | 2019 | 長編 |
17 | 今昔百鬼拾遺ー天狗(今昔百鬼拾遺ー月) | 2019 | 長編 |
百鬼夜行シリーズのおすすめランキング
ここからは全作品読んだ私が、僭越ながらおすすめランキングを作成しました。ぜひご参考くださると嬉しいです!
1位 絡新婦の理(5巻 じょろうぐものことわり)
あらすじ
当然、僕の動きも読み込まれているのだろうなーー二つの事件は京極堂をしてかく言わしめた。
房総の富豪、織作家創設の女学校に拠る美貌の堕天使と、血塗られたノミをふるう目潰し魔。
連続殺人は発泡に張り巡らせた蜘蛛の巣となって刑事・木場らを眩惑し、絡めとる。中心に陣取るのは誰か?
個人的にシリーズの中で圧巻だったのが、この巻です。
冒頭から犯人と思われる人物と中禅寺が話している場面から始まるのだが、いくら読み進めても犯人がわからない、というのがとても面白かったです。
殺人事件の状況が次々と変わっていて、読み進めるのが精一杯なくらい。
凄惨な事件からのラストのまとめかたは非常に見事です。
ぜひ一度は読んでいただきたい作品。
2位 姑獲鳥の夏(1巻 うぶめのなつ)
あらすじ
この世には不思議なことなど何もないのだよーー
古本屋にして陰陽師が憑物を落とし事件を解きほぐす。
東京の雑司ヶ谷の医院に奇怪な噂が流れる。娘は20ヶ月も身篭ったままで、その夫は密室から失踪したという。
関口や榎木津らの推理を超え、噂は意外な結末へ。
著者の京極夏彦さんのデビュー作。これが初めての作品というのだからおみそれします。
この知識量と物語構成は類を見ないほど素晴らしく、私が衝撃を受けた作品です。
まさかの20ヶ月も身篭ったままの妊婦がいる噂を聞きつけ、関口さんが確かめにいきます。(通常は約10ヶ月前後で出産らしいので、倍ですね…)
ラストを読めば、全くファンタジーではなく非常に現実的なお話なんですが、関口さん視点で物語は進むため、段々とふわふわとしていきます。
その煙に巻かれてる感がすごくて、一体どうなっているのかわからない気持ちになっていきます。
そしてラストで欠けていたピースがはまったごとく、そうだったのか!!となります。その快感は何にも変えられないです。
それほど何度読んでも面白いと思える作品です。
3位 陰摩羅鬼の瑕(8巻 おんもらきのきず)
あらすじ
「おお!そこに人殺しが居る!」探偵・榎木津礼二郎は、その場に歩み入るなりそう叫んだーーー。
嫁いだ花嫁の命を次々と奪っていく、白樺湖畔にそびえる洋館「鳥の城」。その主「伯爵」こと、由良昂允(ゆら こういん)とはいかなる人物か?
一方、京極堂も呪われた由良家のことを、元刑事・伊庭から耳にする。
もしかしたら聡い人なら、事件の真相がすぐにわかるかもしれません。
今まで巻よりは少しシンプルな事件なんですが、事件の犯人となった人物の内面まで深く考察するのがとても面白い巻です。
このシリーズは悲しいお話ばかりなんですが、今回の事件も人間のすれ違いのようなものです。読み応え抜群です。
4位 百器徒然袋 風(短編集 ひゃっきつれづれぶくろ かぜ)
あらすじ
調査も捜査も推理もしない、天下無敵の薔薇十字探偵、榎木津礼二郎。
過去の事件がきっかけで榎木津の下僕となった「僕」はそのせいで別の事件にも巻き込まれてしまう。
探偵を陥れようと、張り巡らされた罠。
それに対し、榎木津の破天荒な振る舞いが炸裂する。
連作短編です。
シリアスな本編とはまた一味違ったコメディでカオスな短編です。
いつもは閑古鳥が鳴く「薔薇十字探偵社」に珍しく依頼が持ち込まれます。
榎木津さんはいつも以上に張り切って、事件を解決しようとするんですが、面白いくらいに周りをひっちゃかめっちゃかにします。
ほんと、思わず吹き出してしまうほどめちゃくちゃ面白いので、ぜひご覧ください。
5位 魍魎の匣(2巻 もうりょうのはこ)
あらすじ
箱に祀る奇妙な霊能者。
箱詰めにされた少女たちの四肢。
そして巨大な箱型の建物ーー箱をめぐる虚妄が美少女転落事件とバラバラ殺人事件を結ぶ。
探偵・榎木津、文子・関口、刑事・木場らがみな事件に関わり京極堂の元へ。果たして憑物は落とせるのか?
おそらくシリーズの中で、一番有名な作品です。
かなり物語が重厚で読み応えのある作品。厚さレベルはかなり高いです 笑。
少女の線路転落事件から物語は始まります。
同時期にバラバラ事件も起こります。それぞれの事件に関口さんたちは関わるのですが、事件の概要が段々とわかるうちに、なぜか共通点が見つかっていきます。
しかし共通点がわかったとしても逆に益々事件の真相が分からなくなっていく、という迷走状態に陥ります。そこで中禅寺さんにみんなで相談しに行くという展開です。
ラストの憑物落としは、思わず身の毛がよだつこと間違いなしです。
幻の次回作「鵺の碑」はいつ発売?
シリーズ愛読者なら、全員が気になっている次回作の「鵺の碑」。
最後の出版された「邪魅の雫」から14年経っていますが、果たしていつ出版されるのでしょうか。
どうやら既に原稿は出来ている、と京極さん自身がイベントで仰っていたそうなのですが、出版社の事情で読めるのはまだまだ先になりそうです…
「今昔百鬼拾遺ー月」では、中禅寺さんの妹であるあっちゃんが活躍する話なんですが、どうやら時系列的には「鵺の碑」の裏で起こった話のようです。
そこまで書いといて!肝心の長編は何故読ませてくれないのか…と泣き暮れてしまいそうです。
私が死ぬ前に出版してください!!お願いします!!(土下座)