夜歩く(ディクスン・カー)のあらすじと感想|バンコランシリーズ1巻目

夜歩く(ディクスン・カー)のあらすじと感想|バンコランシリーズ1巻目

「夜歩く」(ジョン・ディクスン・カー)とは

「夜歩く」とは、アメリカミステリ作家のジョン・ディクスン・カーが1930年に執筆した処女作品です。
予審判事のバンコランを探偵役としたシリーズであり、本作品はその第一作になります。

今回は「夜歩く」について感想を語っていきます!

バンコランシリーズの読む順番について

予審判事バンコランシリーズについては、以下でご紹介しています。

アンリ・バンコランシリーズ(ディクスン・カー)の読む順番一覧|全6巻完結
アンリ・バンコランシリーズ(ディクスン・カー)の読む順番一覧|全6巻完結




「夜歩く」のあらすじと登場人物

あらすじ
パリの予審判事アンリ・バンコランは、剣の名手と名高いサリニー公爵の依頼をうけ、彼と新妻をつけねらう人物から護るために深夜のナイトクラブを訪れる。

だが、バンコランと刑事が出入口を見張るカード室で、公爵は首を切断されていた。
怪奇趣味、不可能犯罪、そして密室。

カーの著作を彩る魅惑の要素が全て詰まった、探偵小説黄金期の本格派を代表する巨匠の華々して出発点。

簡単にあらすじをご紹介すると、バンコランと語り手のマールは、ラウール公爵の妻ルイーズが元夫のローランにつけ狙われているという疑惑から、彼女を守るためにナイトクラブへ話を聞きに行きます。

なんでもその元夫ローランは精神異常者で、結婚時代にルイーズを殺そうとしたところ間一髪で逃げられ、病院に収監されていました。
しかし、ローランは八か月前に病院から逃げ出してウィーンに行き、整形外科に顔を変えてもらい、ルイーズの周辺人物の誰かに紛れ込んでいるらしいのです。

ルイーズ夫妻はローランへの恐れからバンコランらに相談するのですが、ついにナイトクラブでラウール公爵が首を切断され、殺されていました。
果たして犯人は誰なんでしょうか?

登場人物

アンリ・バンコラン:パリの予審判事
ジェフ・マール:バンコランの友人。語り手

ラウール・ド・サリニー:公爵
ルイーズ・ド・サリニー:ラウールの新妻
ジェルソー:ラウールの従僕

アレクサンドル・ローラン:ルイーズの前夫。精神異常者

エデュアール・ヴォートレル:ラウールの友人

シャロン・グレイ:ラウールの愛人

シド・ゴルトン:アメリカ人

ルイージ・フェネリ:ナイトクラブ店主

キラール:サリニー公爵家の顧問弁護士

フーゴ・グラフェンシュタイン:ウィーン大学の精神病理学者

フランソワ・ディルサール:刑事




「夜歩く」の感想(ネタバレあり)

中々面白かったです。
人物描写やヴォートレルの殺人など、ちょっと突っ込みどころがあったところは否めないですが、やはり物語の面白さは天才でした。

あとカーは初期作品から怪奇と密室を書いていたんだなと思うとなんだか面白かったです。どんだけ好きなんだと。
以下、個人的によかったところを語っていきます。

誘導が上手い

完全してやられたのが、犯人への誘導です。
元々事件は精神異常者ローランが、元妻のルイーズとその夫ラウールをつけ狙っているという話だったので、第一の被害者がラウールだったのはその話が合ってるように想えました。
そして話の流れ的に、ヴォートレルがローランではないか?という疑惑が生まれてきて調査をしているうちに、彼が第二の被害者になってしまいました。

この時点でヴォートレル=ローレンの線は無くなり、犯人がわからなくなりました。
また、ヴォートレルの死体を発見した際、語り手マールがシャロンの家に訪れていて、ヴォートレルが書いた戯曲の原稿を読んだのですが、最後に

ああ、エデュアール、好きよ!愛してる!

と書いてありました。
これをマールも私もシャロンが書いたものだと勘違いしてたのですが、実は別の人物だということが最後にわかります。

よくよく読めばシャロンがまだ戯曲を読んでいないことがわかるんですが、ひっかかってしまいました…

そして最後に、ラウール公爵家の地下の壁からとある死体がバンコランによって発見されます。
これもかなり驚いたんですが、この死体によって事件の見方が180°変わってしまいます。

改めてこういった展開を作るカーは天才だなと思いました。めちゃくちゃ面白かったです。

華麗なる探偵バンコラン

一番良かったのはバンコランのキャラでした。
最後まで一切手の内を明かさず、最後の謎解きは超人レベルなのでシャーロック・ホームズのキャラと似ています。
また手段を厭わないところは強引でいいですね。もしかしたらサイコパス設定なのかなともちょっと思いました。

今回の語り手はマールという人物なんですが、元々はマールの父とバンコランが親友だった縁で、物心ついた頃からバンコランと付き合いがありました。
バンコランは数々の事件を警察とともに解決してきたんですが、マールはその調査ぶりを一度も見たことがなかったので、今回の事件が初めてになります。

マールがシャロンと接触している時、バンコランは陰で彼らの話を聴いてたりしてたので、プライバシーのへったくれもないなと思いながらちょっと面白かったです。

ローランが怖すぎた

今回、精神異常者のローランが容疑者候補とされていましたが、結末は結局恐ろしすぎました。

ネタバレになりますが、最終的に公爵家に着く前にローランの手によってラウールは殺されてしまいましたが、その後ぎりぎりまでラウールに扮したローランというシチュエーションを想像しただけで寒気がしました。

ルイーズのことを愛していたのかと思えば、結局は殺そうとしていたわけですから、恐ろしい人物です。
そりゃルイーズは狂ってしまうだろうなと思います。
ただ彼女にはあまり同情の余地できないですが、彼女の過去を振り返るとなんとも悲惨でした。

個人的には、もう少しだけヴォートレルとルイーズらの背景が深かったら面白かったなと思います。




まとめ

初めてバンコランの作品を読みましたが、手軽に読めるにしては物語が面白いのでやっぱりカーは天才だと思います。

文庫本だと300ページくらいですので、寝る前の読書にお手軽です。ぜひ。

    バンコランシリーズの感想一覧

  1. 夜歩く
  2. 絞首台の謎
  3. 髑髏城
  4. 四つの凶器