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「エラリー・クイーン創作の秘密: 往復書簡1947-1950年」のあらすじと感想|ファンには堪らない創作秘話

「エラリー・クイーン創作の秘密: 往復書簡1947-1950年」のあらすじと感想|ファンには堪らない創作秘話

「エラリー・クイーン創作の秘密: 往復書簡1947-1950年」/ ジョゼフ・グッドリッチ

「エラリー・クイーン創作の秘密: 往復書簡1947-1950年」は、エラリー・クイーンの著者であるフレデリック・ダネイとマンフレッド・リーの二人がどうやって名作の数々を生み出したのか、その打ち合わせの様子が垣間見える往復書簡が載っています。

一応作品は読んでいたほうが「この物語展開や人物について、二人はこう考えていたんだな〜」と色々知れるので、ファンは必読の本です。

ですが別に作品を読んでいなくとも、文章を職業にしてる人や企画やモノづくりしてるビジネスマンにとっては、とても参考になるビジネス本です。

私個人としては興奮して夜中に眠れないほど、面白かったです。
それでは以下から感想を語っていこうと思います。

エラリー・クイーンのシリーズ

エラリー・クイーンのおすすめ作品、読む順番については以下でご紹介しています。合わせてご参考ください。

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「エラリー・クイーン創作の秘密」の概要

概要

本格ミステリの巨匠エラリー・クイーンは、フレデリック・ダネイ、マンフレッド・リーという従兄弟同士の合作作家。

プロット担当のダネイと小説化担当のリーは、毎回、手紙と電話で意見を交換しながら作品を創り上げたが、その合作の実際は長く秘密にされてきた。

本書は二人の往復書簡によって、二つの異なるタイプの才能が細部の検討を重ね、時に激しい議論を戦わせながら、中期の傑作『十日間の不思議』『九尾の猫』『悪の起源』を完成させていく過程を明らかにした貴重なドキュメント。

「この書簡集を夢中になって読み終えた今、私は、フレッドとマニーがこれだけ争っているのに本が完成して出版されたという事実を、信じることができない。しかし、二人がそれをやってのけたことを神に感謝しよう!」

――ウィリアム・リンク(本書序文より)

本書は二人の往復書簡(往復書簡1947-1950年)をまとめています。

この時期はちょうど、エラリー・クイーン中期の名作ミステリー「十日間の不思議」「九尾の猫」「悪の起源」を執筆している時期にあたります。

なのでその書簡には当然、彼らの打ち合わせてる様子がガッツリ見れるわけなんですがこれがもう超絶激しいです。
この二人、めちゃくちゃ仲悪いんじゃないか?と思うほど、激しい言葉の応酬を繰り広げられています。

私は言葉の激しさにポカーンとしたんですが、同時に二人の熱量が凄まじく感じられるやり取りでした。



「エラリー・クイーン創作の秘密」を読んだ感想(一部ネタバレ)

何度も言いますが、二人のモノづくりに対する熱意と姿勢は感嘆せざるを得ません。
個人的に仕事でクリエイティブをやっているのですが、彼らのようにあるべきだなと勉強になりました。

エラリー・クイーンの作品ができるまでの過程

基本的に、プロット(概略)はダネイが作り、小説として仕上げるのはリー、と役割分担しています。

手順としては、

①ダネイがプロットを仕上げてリーに渡す。
②そしてリーが仕上げたらダネイに確認してもらう。
③細部を擦り合わせていく。

という感じになります。(文中から察するに)

一般的な仕事でもそんな感じだと思いますが、彼らと違う点は「妥協」があるかないかです。

通常、何か仕事する時は相手の意見を聞きつつ、自分の意見も反映させ、仕事を仕上げていきます。そこに万が一自分が「こう変更したいな」と思っても、納期や他の意見によって「妥協」せざる負えないケースが多々起こります。

しかし彼らは「妥協」をしません。

とことん、「自分はこう思ってる。こうしたほうが読者にもウケるし、今の時代に沿っている」などと批評し合ってお互いがぶつかり合います。

もちろん最終的にはどちらかが妥協する場面がありますが、それでも真っ直ぐに自分たちの作品のクオリティを上げるべくして身体や精神を病みながらも戦っていました。

何かを犠牲にしているから凄いということを言いたいわけではなく、単純にそれくらいの真剣さをもってモノづくりに挑んでいる彼らが称賛に値すると思いました。

以下3作品中2作品について、彼らが語っていた面白かった箇所を書きますがネタバレなのでご注意ください!

「十日間の不思議」:1948年出版

ご存知ない方用に、まずはあらすじを乗っけておきます。

あらすじ

ぼくを見張ってほしい――たびたび記憶喪失に襲われ、その間自分が何をしているのか怯えるハワード。

探偵エラリイは旧友の懇願を聞き入れて、彼の故郷であるライツヴィルに三たび赴くが、そこである秘密を打ち明けられ、異常な脅迫事件の渦中へと足を踏み入れることになる。

連続する奇怪な出来事と論理の迷宮の果てに、恐るべき真実へと至った名探偵は……巨匠クイーン円熟期の白眉にして本格推理小説の極北、新訳で登場

こんな感じの物語で、実は前作の「災厄の町」と舞台・キャラクター構成が少し似ている部分があります。

そのことを小説担当のリーは批評していて、なおかつ「作中に登場するハワードの父の弟ウルファートとその母ヴァン・ホーンが、キャラクターとして一貫しておらず不必要ないのではないか」と述べています。

対するプロット担当のダネイは、「どこやねん!ミステリーにおいて怪しい人物は必要不可欠だし、きっかけとして母親は重要なキーパーソンだ!」と長々と反論します。

一番面白かったのが、ダネイの「ディードリッチは容疑をかけることができる唯一の人物である、というだけで疑われるべきではない」というところです。
これが先ほどのリーの解になるというわけですね。

こういった所など、きちんと一つ一つ組み立ているんだなと思うとすごいなと感心するばかりです。

「九尾の猫」:1949年出版

この作品がやりとりが非常に濃密で、二人にとって一番のストレスだった模様です。

あらすじ

次から次へと殺人を犯し、ニューヨークを震撼させた連続絞殺魔〈猫〉事件。

すでに五人の犠牲者が出ているにもかかわらず、その正体は依然としてつかめずにいた。

指紋も動機もなく、目撃者も容疑者もまったくいない。

〈猫〉が風のように町を通りすぎた後に残るものはただ二つ――死体とその首に巻きついたタッサーシルクの紐だけだった。

過去の呪縛に苦しみながらも、エラリイと〈猫〉の頭脳戦が展開される!

この作品は、前作の「十日間の不思議」から繋がる作品です。
ネタバレをしますと、前作ではエラリーが間違った推理をして友人を死なせてしまい、犯人の思惑どおりに利用されてしまいました。
自分の無力さを知ったエラリーは一度探偵業を降りるのですが、今作で父のリチャード警視にお願いされて、事件解決に協力します。

面白かった箇所

この作品でも二人はかなり長いやり取りを行っていて、特に作中に登場する精神科医や事件について論じあっていました。

とくに一番面白かった箇所は、以下の事件についての話です。ミステリーに対しての強いこだわりが出ていた興味深い話でした。

まずはリーが「女性の被害者多くない?犯人がリストで被害者を選んでるなら男性が多いはずだ。」と指摘します。

その後ダネイが以下のように返答します。

女性の被害者を多くしているのは意図的だ。女性を被害者にすることで読者に与える印象が強くなるからだ。私は『最も重要な殺人』の被害者は女性であるべきと考えている。」(p.171~あたり)

そう述べた後に、今作の『重要な殺人』をいくつか理由とともに述べています。この部分が一番興奮しました。

重要な殺人なんて考えて読んだことないのですが、たしかに物語の盛り上がりなどは意図的に考えられ構成されているのだなと思うと素晴らしいの一言です。



まとめ

二人は途中で相手からの手紙を開けたくない、届くと数日は具合が悪くなって精神衛生上良くない、とまで言い始めます。

しかもこの間、リーは請求書の支払いがやばく、ダネイは子供が病気だとなんだで、お互いが疲労困憊の状態でやってるのが垣間見れます。

生活やお金のために二人はタッグを組んでやっているのはわかるのですが、そんなギリギリな状況下でも真摯に作品づくりに取り組むのは凄まじいです。

ぶっちゃけダネイはダネイで、プロじゃん!というレベルの文章の上手さですし、リーも1からプロットを考えて書けるプロの小説家なんで、個々で十分ないい作品を作れるはずです。

ですが、それ以上にお互いが得意な能力を組み合わせて100%以上の作品を生み出すことをやりたかったのかなと読んでいて思いました。

やっぱり二人は天才だし、私は彼らの作品が好きだなとより一層感じた良書でした。

ここまで読んでくださった方はありがとうございます。
本書をきっかけに、いろんな人がエラリー・クイーンを知ってくださると嬉しいです。