「名探偵のいけにえ〜人民協会殺人事件」(白井智之)とは
「名探偵のいけにえ〜人民協会殺人事件」とは、著者の白井智之さんが2022年に執筆したミステリー小説です。
とある宗教団体で起こる殺人事件を、日本の名探偵たちが調査していく物語です。
ちなみに2023年の「このミステリーがすごい!」ランキングで2位に選ばれた大人気作品です。
今回は「名探偵のいけにえ〜人民協会殺人事件」について感想を語っていきたいと思います!
このミスについて
「このミステリーがすごい!」のランキングついては、以下の記事で解説しています。
【TOP20】このミステリーがすごい!2023年版ランキング|国内・海外20作品
「名探偵のいけにえ〜人民協会殺人事件」のあらすじと登場人物
あらすじ
病気も怪我も存在せず、失われた四肢さえ蘇る、奇蹟の楽園ジョーデンタウン。
調査に赴いたまま戻らない助手を心配して教団の本拠地に乗り込んだ探偵・大塒は、次々と不審な死に遭遇する。奇蹟を信じる人々に、現実世界のロジックは通用するのか?
圧巻の解決編一五〇ページ!
特殊条件、多重解決推理の最前線!
この物語の始まりは衝撃的です。
とある宗教団体に所属する人たち全員が、毒入りジュースを飲んで集団自殺するシーンから始まります。
その後、日本で探偵をやっている大塒の視点へと戻ります。
日本では大塒の助手をしていたりり子ちゃんが、コロンビア大学の学会に行ったきり帰ってこない事件が起きていました。
りり子ちゃんを心配した大塒は彼女の足取りを調査すると、彼女がわざわざ嘘をついて「人民協会」という宗教団体を調査しに行ったことがわかりました。
早速大塒は人民協会が拠点を構えるジョーデンタウンへ向かうのですが、そこでは不可思議なことが起きていて・・・
こちら作品は、同著の「名探偵のはらわたシリーズ」の一部らしいのですが、一切知らなくても読めますのでご安心ください。
ちなみにちょっとでもグロい描写が苦手な方がいましたら、読まないことをおすすめします。
物語のベースになった事件について
こちらの話は、「人民寺院(ジョーズタウン)」の集団自決事件が元になっています。
ここで詳しく語りませんが、Wikiを読むと最後の事件はそのまま使われているようです。
事件が起こった日は実際の1978年11月18日と合致しています。
亡くなった方の人数は918人と同じにしてありますし、途中で訪れる議員の亡くなり方などもそのままのようです。
個人的に全然知らない事件だったのでめちゃくちゃ怖すぎる話ですが、それを使おうと思った著者も大胆ですね。
登場人物
・大塒宗(おおとや たかし):探偵
・乃木野蒜(のぎ のびる):ルポライター
・有森りり子:大学生で大塒の助手。クラーク調査団の一人
・ジョディ・ランディ:精神科医。クラーク調査団の一人
・アルフレッド・デント:元FBI捜査官。クラーク調査団の一人
・イ・ハジュン:亡命中の青年。クラーク調査団の一人
・レオ・ライランド:下院議員。ライランド調査団
・ダニエル・ハリス:NBC記者。ライランド調査団の一人
・ジム・ジョーデン:ジョーデンタウンの教祖
・ピーター・ウェザースプーン:ジョーデンタウンの内務長官
・ジョセフ・ウィルソン:ジョーデンタウンの保安長官
・ラリー・レヴィンズ:ジョーデンタウンの保安係
・ロレッタ・シャクト:ジョーデンタウンの医師
・レイ・モートン:ジョーデンタウンの校長
・ブランカ・ホーガン:ジョーデンタウンの料理係
・レイチェル・ベイカー:ジョーデンタウンの料理係
・クリスティナ・ミラー:ジョーデンタウンの料理係
・ニコル・フィッシャー:ジョーデンタウンの庶務係
・ルイズ・レズナー:ジョーデンタウンの庶務係
・ウォルター・デイヴィス:ジョーデンタウンの農耕係
・フランクリン・パーテイン:ジョーデンタウンの看守
・シャロン・クレイトン:ジョーデンタウンの霊園の管理人
・Q:ジョーデンタウンの少年
「名探偵のいけにえ〜人民協会殺人事件」の感想(ネタバレあり)
多重解決型ミステリー
ミステリーが好きな人にとっては好きであろう作品だと思います。
著者の白井さんは「毒入りチョコレート」などの多重解決が大好きだそうで、今回はその形式が使われています。(恐らく3回くらい)
今作では、クラーク調査団の3人が先に殺害されることになり、その事件の容疑者を見つけるために大塒とりり子たちは、ジョーデンタウンに留まります。
途中、わざとりり子が殺人事件の謎解きを住人たちの前でやるんですが、その後何者かによってりり子が殺されます。
この時の謎解きを一つ目とします。
りり子の死にキレた大塒は、事件の真相を突き止めて再度住人たちの前で真実を話します。
ただし、最初に謎解きした内容はジョーデンタウンの住人目線で考えた解答で、大塒が示した”選択肢の一つ”でもありました。こちらが二つ目。
次に、住人以外の第三者の視点(大塒)から考えた謎解きを行いました。
そこで話した内容は、二つ目とは犯行内容も犯人も全然異なっています。
ぶっちゃけると最初のほうでガキが犯人だろうと検討はついていたのですが、そっちのほうだったか〜と当てが外れました。ここは面白かったです。
ちなみに「クラーク調査団の殺人事件」としての解答は、三つ目の謎解きが本命になります。
しかし実際、大塒とってはどちらでもよく、ある意味復讐のために謎解きに仕掛けたものが、”奇蹟というものを信じるか?否か?”という二つの選択を教祖に突きつけたことが重要でした。
これにより、奇蹟を起こしてきた教団の教えを否定するか、しないかをわざと選ばせることになります。
これは最初に登場した、相手に2つの選択肢を突きつけてどちらかしか選べないようにする手法が使われています。
今作では、このように所々にある伏線を少しずつ回収することが繰り返されていて、非常に緻密に書かれていました。無駄な情報がない感じがします。
最後に教祖が選んだ答えについてはぜひ読んでみてください。
最後の「集団自決事件」事件
「クラーク調査団の殺人事件」については解決しましたが、最後の最後に冒頭の「集団自決事件」が起こってしまいます。
冒頭の様子だとなるべくしてなったように思えますが、生き残りのQが最後に謎解きをします。
結果、「集団自決事件」は完全に「名探偵のいけにえ」というタイトル回収になったわけです。
詳しい謎解きについては本作品を読んでもらうとして、このように最後の最後まで物語の展開をどんどんひっくり返される構成はすごいし、作るのお上手だな〜と思いました。
ただ、それと同時にちょっと興醒めしてしまう自分がいます。どんでん返し系は、1回だけのほうが効力があるのではないかなと。
気になった点
いくつか気になった点があるのですが、一番はキャラクターの薄さと物語設定に違和感を感じました。
りり子ちゃんなどのクラーク調査団がなぜ彼らが選ばれたのか?ということがよくわかりませんでしたし、大塒の最後の選択も説得力に欠けます。(生贄をするほどの想いだったのか…?)
トリック重視の作品だとどうしてもそういった部分が出てきてしまうのかもしれませんが、もったいないなと思った点です。
今作が好きな方は、同じくトリック重視だった「イヴリン嬢は七回殺される」もおすすめです。
こちらはSFミステリー作品ですが、面白いです。ルールがある中で謎解きしなければいけない、という物語なんですが縛りがあるぶん楽しかったです。
「イヴリン嬢は七回殺される」あらすじと感想|犯人を見つけるまでループから出られない?
まとめ
個人的には合わない作品でした。
一応理由としてはいくつかあるのですがそもそも私が好むのは物語なので、トリックに徹底した作品にはふーんっていう感じでした。
でもやっぱり読ませる力はめちゃくちゃあるので一気読みしましたし、本格ミステリーが好きな方にはヒットすると思います。
ぜひ読んでみてください!
今回の作品が好きな方は、「六人の嘘つきな大学生」もおすすめです!
読みやすいし、最後の種明かしが面白いので、よろしければ。