北村薫のデビュー作「空飛ぶ馬」
「空飛ぶ馬」とは、著者の北村薫がデビュー作として最初に執筆した作品です。
これが後に「円紫さんと私シリーズ」という人気シリーズ化されていきます。
作品は連作短編の形を取っており、主人公の「私」が日常的に出会うちょっとしたミステリーを円紫さんに相談し、謎を解いてもらいます。
今回は「空飛ぶ馬」の感想を語りたいと思います!
「円紫さんと私シリーズ」について
円紫さんと私シリーズの作品一覧については以下の記事で紹介していますので、ご興味あれば御覧ください!
円紫さんと私シリーズ(北村薫)の読む順番一覧|日常ミステリーシリーズ
「空飛ぶ馬」のあらすじ
あらすじ
「私たちの日常にひそむささいだけれど不可思議な謎のなかに、貴重な人生の輝きや生きてゆくことの哀しみが隠されていることを教えてくれる」と宮部みゆきが絶賛する通り、これは本格推理の面白さと小説の醍醐味とがきわめて幸福な結婚をして生まれ出た作品である。
収録作品:
・織部の霊
・砂糖合戦
・胡桃の中の鳥
・赤頭巾
・空飛ぶ馬
上記でも紹介したとおり、連作短編で一つ一つの話自体は繋がっていません。
いわゆるコージーミステリー(日常ミステリー)の分類になります。
探偵役である円紫さんと私の出会いは、「織部の霊」にて書かれています。
女子大生である「私」は、ある時近世文学概論の加茂先生に、同じ大学出身で落語家の春桜亭円紫さんを紹介されます。
そこから二人の出会いが始まり、「私」は日常にあった不可思議な出来事を円紫さんに話すようになります。
「空飛ぶ馬」の感想(ネタバレあり)
この作品はとてもホッとできる作品でした。
どちらかというと大人向けの作品で、文学的な表現がよく用いられており、これがとても良い雰囲気を作り出していて、全く癖がありません。
読みやすいのにどこか切なく、人間の営みを感じさせる良い小説でした。
特に、一番最初の見開きのページに宮部みゆきさんのメッセージが書いてありまして、この一文が心に染み渡るような感じがしてとても良かったです。
(一部抜粋)…希有のカップルを誕生させた著者北村薫氏は、ヒロインの「私」と探偵役の噺家春桜亭円紫師匠とのやりとりを通して、私たちの日常にひそむささいだけれど不可思議な謎のなかに、貴重な人生の輝きや生きてゆくことの哀しみが隠されていることを教えてくれる。
こんな秀逸なコメントを書かれていたら読まずにはいられないと思います。
一冊読み終わった後も、思わずこのコメントだけ読んでしまいました。
以下からは、気に入った物語ごとに感想を書いていこうと思います。
ちなみに私のイチオシは「織部の霊」「空飛ぶ馬」です!
①織部の霊
円紫さんと私の出会い。
この二人を繋げてくれた加茂先生が、子供の頃に起きた不思議なことを話してくれます。
それは「夢で見た人と現実でも出会う」謎です。
これは中々わかりずらい話だったんですが、タネを明かせばなんてことない単純な話でした。
大雑把に言えば、無意識に見ていた記憶が夢で蘇ったというオチです。
しかし、加茂先生の中ではずっと気にかかってしょうがない謎だったようで、最後の泣き笑いを浮かべた表情だったことが印象に残っています。
②砂糖合戦
喫茶店で出会う謎で、三人の女子高生がサービスの砂糖を7〜8杯以上カップに入れる不可解な行動をしていました。
これもタネを明かせば単純な話だったんですが、女性の怖さが如実に出ている話です。
女子高校生は感情に任せて犯行していたようですが、個人的に周りにいるタイプで既視感がありました。プライドが異常に高いタイプ。
かなりリアルで面白かったです。
③胡桃の中の鳥
これまたリアルな話です。
「私」が旅行中に出会った謎なんですが、何故か友人たちと一緒に乗ってきた車の座席のカバーが取れていました。
この謎は結末がなんとも切ない話なんですが、よく思いつくなあと思わず感心してしまいました。
④空飛ぶ馬
表題作が一番最後に配置されていた物語。12月の冬を感じさせるとても良い話です。
「私」の馴染みのお店である”かど屋”の店先に飾ってある木馬が、ある時消えて、次の日には戻っているという不思議な出来事がありました。
これもなんてことない謎だったのですが、すごく人間の良さが表現されている作品です。
現代ではあまり人間の優しさに触れる機会が減ったなあと個人的には感じているのですが、人間の良さももう一度感じさせてくれる良い話でした。
「赤ずきん」は男女の痴情のもつれでドロドロした話でしたが、「空飛ぶ馬」はとても癒やされました。
というか国雄さんがめちゃくちゃ良い人で、勝手に感動しました。
この後ぜひ結婚してることを祈ります。
まとめ
個人的に初めての著者だったのですが、文学的な表現がとても綺麗で、ミステリーもシンプルで面白い、総じてとても満足いった作品でした。
コージーミステリーとしてはかなり有名な作品らしいのですが、これは2巻目も読んでいこうと思います。
優しいミステリーが好きな方はぜひ読んでみてください!