「爆弾」(呉勝浩)とは
「爆弾」とは、著者の呉勝浩が2022年に執筆した社会派エンタメ小説です。(ちょっとしたミステリー要素もあり)
2022年の直木賞候補作としても挙げられており、かなりの力作となっています。
「ミステリが読みたい!2023年版国内編」でも、第一位に挙げられています!おめでとうございます〜!
今回は「爆弾」について感想を語っていきます。
「爆弾」のあらすじと登場人物
あらすじ
東京、炎上。正義は、守れるのか。些細な傷害事件で、とぼけた見た目の中年男が野方署に連行された。
たかが酔っ払いと見くびる警察だが、男は取調べの最中「十時に秋葉原で爆発がある」と予言する。直後、秋葉原の廃ビルが爆発。まさか、この男“本物”か。さらに男はあっけらかんと告げる。
「ここから三度、次は一時間後に爆発します」。警察は爆発を止めることができるのか。
爆弾魔の悪意に戦慄する、ノンストップ・ミステリー。
この物語は、一人の爆弾魔と思われる人物と警察との心理ゲームです。
最初は、酔っぱらって自販機を蹴ってたら店員に止められ殴る、という行為で警察にしょっぴかれた”スズキ”。
取り調べ中に彼を担当していた刑事の等々力は、スズキに「わたし霊感あるんですよ、警察の役に立てれば免除してもらえますか?」と不思議なことを言われます。
そして、スズキは10時に秋葉原あたりで何か起こる、と予言します。するとその予言どおりに、秋葉原で爆発事件が起こってしまいます。
そこから彼はもう一つ、「ここから三度、次は一時間以内に爆発します」と予言します。
この事件をきっかけに、取調室でスズキと警察の心理戦がスタートします。
果たしてこの男は何者なのか?
何の目的で警察に捕まったのか?
爆発を起こしている犯人はこいつなのか?
もうめまぐるしく展開が変わるので、ノンストップで読んでしまうこと間違いなしの小説です。
登場人物
・スズキ タゴサク:野方警察署で取り調べを受けていた霊感がある男
・等々力 功:野方警察署の刑事
・清宮 輝次:警視庁捜査一課特殊班捜査係の刑事
・類家:警視庁捜査一課特殊班捜査係の刑事、清宮の部下
・伊勢 勇気:野方警察署の巡査
・鶴久 忠尚:野方警察署の刑事課長
・長谷部 有孔:野方警察署にいた元刑事
・倖田 沙良:沼袋交番勤務の巡査
・石川 明日香:長谷部の別れた妻
・辰馬:長谷部の息子
「爆弾」の感想(ネタバレあり)
面白かったです!これぞまさしくエンタメ小説というクオリティで、どんどん先が気になって一気に読んでしまいました。
最後は何とも言えない読了感ですが、ちょっとした考察のしがいもある小説でした。
それにしても作中の謎解きは難しかったです。これ解けたらすごいな~と思いながら読んでました。
以下詳細に語ります。
命の差とは
今作でなんとも言えなかったシーンが、11時に起こった爆発です。
スズキと清宮のゲーム8問目で、スズキからの5つ目のヒントを聞かずに”子供”が関連する場所に爆弾が仕掛けられていると思って飛び出します。
結果的に幼稚園の爆弾は回収されて被害はありませんでしたが、最後に一つだけ取りこぼしてしまいました。
それは代々木公園の炊き出し場です。そこは捜査していなかったため、爆発事件が起こってしまいました。
スズキの狙い通り、5つ目のヒントを聞かず命に差を付ける結果になってしまい、清宮は激昂しスズキの指を折りそうになります。
ここまで面白いくらいにスズキの手のひらで転がされて、なんとも言えない気持ちになりました。
清宮は自分の子供を交通事故で亡くしていたため、余計に子供の命に対して重さを感じていたのでしょう。
そのため、使命にかかれ理性を失ったのだと思います。
命に差がないというのは嘘、というスズキの主張に皮肉が効きすぎて、読んでいて辛かったです。
最後の爆弾は?
最後に事件の真犯人も判明しましたが、結局スズキが仕掛けた”最後の爆弾“は一体なんだったのでしょうか。
類家はないとはっきり断言していて、最後の一文でも見つかっていないと書かれていたので、実際に爆弾はないと予想しています。
ただもしかしたら、スズキ自身が”爆弾(比喩)”だったとも捉えられるんじゃないかなと思います。
p.405あたりにも書いてありますが、スズキ自身が爆弾だとすれば誘発されて第二のスズキタゴサクもどこかで出現し、このゲームはずっと回り続けることができます。
第二のスズキタゴサクとして、暗に誘われたのが類家でした。
スズキの出す謎々にも難なく解答し、先回りして戦を制したのは見事でしたが、彼の頭の良さに気づいたスズキが「むなしくないの?」と問いかけます。
類家はその誘いに乗らずに思想を貫きましたが、読んでいてハラハラした場面でした。
今回は引き分けでしたが、この後もどこかでまたゲームをする機会があるかもしれません。
二人は思想は違えど表裏一体のような存在だったかと思うと、中々興味深かったです。
でも思うんですけど、最初と最後で類家、人格代わってませんか・・・?
スズキタゴサクという男
この小説で始終スポットライトが当たっていたのは、”スズキタゴサク”です。
最初はタダの男だったのにいきなり存在感が強くなり、彼が次に何をするのか一挙一動が気になるほどの重要人物で、非常に興味深かったです。
読み進めていくにつれ思い出したのが、柚木麻子「Butter」です。
「Butter」は、3人の男を殺害した梶井真奈子という容疑者の不思議な魅力に、記者が魅了されていく物語ですが、まさに梶井を彷彿とさせるようなキャラクターでした。
あくまで「Butter」は実話がベースにありますが、「爆弾」はフィクションです。
著者がかなり犯罪者の心理などを調べて、今回の”スズキタゴサク”を作り出したのかなと思わせるほど、非常に魅力的な人物でした。
ぶっちゃけ読んでても最後の最後まで人物像が掴めなかったです。
劣等感、自己顕示欲が強いのは分かったのですが、彼自身の生い立ちや過去などはあまり語られていませんでした。
もしかしたら、最初のミノリちゃんの話は本当だったのかもしれません…違うと思いますが、それほど私も彼の話術にのまれていました。
途中まで、スズキと心理戦をしていた清宮は、やはり彼の話術に囚われてしまい相手の思惑にのってしまいました。
彼が前座というのはわかっていましたが、ちょっと残念です。
まとめ
その他の登場人物についての感想は、きりないので省略しました。
彼彼女らは突っ込み満載で、しょうもなかったです。逆に物語を取調室で完結していたらまた違ったかもしれません。
ちなみに今回の直木賞選評委員による、批評がなかなか面白かったのでぜひ読んでみてください。あ〜わかるな〜って感じでした。
選評はこちら
呉先生の作品は初めて読みましたが、とても面白かったので別の作品も読んでみようと思います。
まだの方はぜひ読んでみてください!
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