しろがねの葉(千早茜)のあらすじと感想|銀に魅入られた人間たち【2022年直木賞受賞作品】

しろがねの葉(千早茜)のあらすじと感想|銀に魅入られた人間たち【2022年直木賞受賞作品】

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「しろがねの葉」(千早茜)とは

「しろがねの葉」とは著者の千早茜さんが2022年に執筆した、石見銀山で気高く生きていく少女ウメの一生を描いた時代小説です。
ちなみに2023年の直木賞受賞作品でもあります。

今回は「しろがねの葉」について感想を語っていきたいと思います!




「しろがねの葉」のあらすじと登場人物

あらすじ

戦国末期、シルバーラッシュに沸く石見銀山。
天才山師・喜兵衛に拾われた少女ウメは、銀山の知識と未知の鉱脈のありかを授けられ、女だてらに坑道で働き出す。

しかし徳川の支配強化により喜兵衛は生気を失い、ウメは欲望と死の影渦巻く世界にひとり投げ出されて……。
生きることの官能を描き切った新境地にして渾身の大河長篇!

物語の舞台は石見銀山という銀が採れる山で、銀堀という職務を全うする男たちの中に飛び込んだ小さなウメ。
そんな彼女が己の運命をどう立ち振舞っていくかが描かれています。

家族で夜逃げし、一人だけ生き延びて山を越え、石見銀山に辿りついたウメは山を見ていた喜兵衛に拾われます。
彼の手子として働き始めますが、自分の身体が女性として成長していくにつれ、自分の成長に混乱し周りの目も変わっていきます。

戦乱の時代を必死に生きる一人の少女がどう成長していくのか、ぜひ読んでいただきたい作品です。

物語背景は石見銀山

石見銀山とは、日本に存在する山で現代では世界遺産となっています。
当時の最盛期には、世界のおよそ三分の一の銀が採れたと言われているほど、掘れば掘るほど銀が溢れていた山でした。

間歩(まぶ)と呼ばれる坑道があるのですが、銀堀(かねほり)はその道を通りながらノミで銀を採取していました。

また、銀を精製するためには木材が必要不可欠で森の木を刈り取ってしまうことが常でしたが、石見銀山では木の管理が徹底していました。
物語の中でも、喜兵衛があちこちで刈り取られた木の状況を見て、指示出しするシーンがあります。
参考:世界遺産 石見銀山

ちなみに銀を採掘する銀堀(かねほり)については、以下のサイトに解説されています。
山師と手子、銀堀の関係まで解説されています。
参考:石見銀山について

登場人物

ウメ:最初は4〜5歳の女の子。赤子の頃から夜目が効く。家族で夜逃げし一人生き延びて石見銀山に迷い込む。そこで喜兵衛と出会う

喜兵衛:天才山師。ウメを拾って手子にする

ヨキ:喜兵衛の付き人的存在。謎多き人物

隼人:宗岡の手子。出合頭にウメに腕をかじられた。将来有望のため周りからモテる

宗岡弥右衛門:石見銀山に武家屋敷を構える主。実在する人物

岩爺:一番長い銀堀

多助:いつも酒臭い銀堀
おとよ:多助の妻

:喜兵衛が買った赤子。異国人の赤子のため、青い目をしている

伝兵衛:山師




「しろがねの葉」の感想(少しネタバレあり)

とても面白かったです!
著者の千早さんの時代小説は初めて読みましたが、主人公ウメの葛藤や自分の性に抗う姿など人物描写が非常に良かったです。
以下、詳しく感想を語ります。

銀山の女性は3人の夫を持つ

著者がインタビューで仰っていたことですが、本作を書くきっかけは「銀山の女性は3人の夫を持つ」といういい習わしを、石見銀山で観光をしていた時に聞いたそうです。過酷な労働をしている銀堀の短命さを例えた言葉です。

現代と比較するとなんとも悲しい話ですが、本作でもウメは三人の夫(喜兵衛、隼人、龍)を持つことになります。

実質、きちんと夫婦関係になったのは隼人が一番最初ですが、ウメは喜兵衛をずっと慕っていました。
暴漢のせいで赤子を孕んだ場面で発した「喜兵衛の子じゃ」という言葉に、彼女の気持ちが表現されています。

しかし、結局は好いた喜兵衛が石見銀山を離れることになり、ウメは隼人と暮らすことになります。

個人的にウメが喜兵衛のどこに惚れていたのか汲み取れなかったのですが、喜兵衛についてはウメを女として見ていたのではなく、自分の娘のように思っていたのではないかなと思います。

最後の最後までウメは自分の夫を看取る側であったことが、銀山でのただの女でしかないと解釈したのですが、そう考えると非常に辛かったです。

隼人の生き様

隼人については、銀堀に憧れ、銀堀として死んでいく男だったことが読んでいて非常に辛かったです。
ウメと添い遂げた後、彼女たちと長生きするために仕事を変えることができたはずなのに、ずっと銀堀を続けていたことがまるで呪いをかけられたようでした。

途中でウメが心配して色々と薬を持たせてくれたにも関わらず、銀堀へのプライドで拒否します。
ここが男と女の生き様の違いでしょうか。男はメンツを大事にするといいますし…

また、彼がずっとウメへ片思いしていたことも辛かったです。
最後にようやくウメが隼人を失いたくない、と自覚していても、喜兵衛への想いを忘れられないという、登場人物同士の矢印が繋がらない虚しさったらないです。

一番印象に残ったのが、ウメを襲った暴漢を殺したのは喜兵衛だとヨキから聞いた時にウメは非常に喜んでいて、最後まで喜兵衛を慕っていた事実がなんとも言えなかったです。
どんだけ喜兵衛が好きだったのでしょうか。まるで雛のようです。

隼人も結局ずっとウメに片思いをしていましたし、最後まで成就しない想いが辛すぎました。

銀堀の儚さ

石見銀山など採掘する仕事をしていた人間は短命だったそうです。
山の中では有毒ガスが発生しているため、ずっと間歩の中にいる銀堀たちは鉱山病にかかり、呼吸器系をやられて亡くなってしまうからです。

ちなみに30歳で長寿と言われていたほどなので、恐らく隼人や龍などの銀堀は20代前後で亡くなったのではないかなと思います。

だから「銀山の女性は3人の夫を持つ」というのは、働き手である男どもは次々に亡くなり、女性は子供を産むために別家に嫁ぐという社会循環が生まれます。
長生きすることが幸せに繋がるのかという話はさておき、確実に銀堀が働いていた場所は最悪です。

どの当時の考え方の違いでしょうが、なんとも人生が儚く感じてしまうのはなぜでしょうか。




まとめ

個人的に隼人が好きだったので、亡くなった時は非常に辛かったです。
そこで運命が決まったのかはわかりませんが、この作品を通じて銀堀の存在を知れたことはとても良かったなと思います。

なんでもそうですが、何かの幸せは何かの犠牲の上で成り立っているんだなと思います。なんとも得難い読書体験でした。

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