夜に星を放つ(窪美澄)のあらすじと感想|2022年直木賞受賞作品

夜に星を放つ(窪美澄)のあらすじと感想|2022年直木賞受賞作品

「夜に星を放つ」(窪 美澄)とは

「夜に星を放つ」とは、著者の窪 美澄が執筆した星を巡る短編集です。(全部で5編)
こちらは第167回直木賞を受賞しているほど、有名な作品となります。

窪美澄さんといえば、「ふがいない僕は空を見た」「晴天の迷いクジラ」で有名な著者ですが、今作も中々お上手な作品でした。

今回は「夜に星を放つ」について感想を語りたいと思います。

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「夜に星を放つ」のあらすじ

あらすじ
かけがえのない人間関係を失い傷ついた者たちが、再び誰かと心を通わせることができるのかを問いかける短編集。

コロナ禍のさなか、婚活アプリで出会った恋人との関係、30歳を前に早世した双子の妹の彼氏との交流を通して、人が人と別れることの哀しみを描く「真夜中のアボカド」。

学校でいじめを受けている女子中学生と亡くなった母親の幽霊との奇妙な同居生活を描く「真珠星スピカ」、父の再婚相手との微妙な溝を埋められない小学生の寄る辺なさを描く「星の随に」など、人の心の揺らぎが輝きを放つ五編。

先ほども言いましたが、この作品の舞台はコロナ化における現代です。
いろいろな人の人生が変わる中、5人の主人公はどのように生きているのか、生活の一部を切り取って綴っている作品です。

オチがあるような作品ではないのですが、静謐でどこか切なさを感じる物語ばかりです。

ちなみに同じコロナの現代を使っている小説として、第166回直木賞候補作の「新しい星」にも雰囲気が似てました。
著者が違うだけでこんなにも物語に違いがでるんだなと思いました。よろしければ、読み比べてみてください。

感想も以下で書いています。

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「夜に星を放つ」の感想(ネタバレあり)

まず総合的な感想としては、人物描写がかなり上手いという印象でした。
どの短編に出てくる主人公に感情移入してしまうほど、良かったです。

個人的に好みだったのは「真珠星スピカ」、「星の随に」です。


・真夜中のアボカド
・銀紙色のアンタレス
・真珠星スピカ
・湿りの海
・星の随に(まにまに)

全て星を絡めた作品なんですが、最後に唐突に星が登場するので無理矢理感を感じてそこは微妙でした。

以下詳細に語ります。

①真夜中のアボカド

主人公は32歳OL、綾ちゃんです。
半年くらい婚活アプリで相手を探していたのですが、途中で34歳のフリープログラマーの麻生さんと出会います。
二人は仲を深めていくのですが、ある日麻生さんが女性と赤ちゃんと一緒にいるのを見つけます。

いやー辛い。辛すぎると思いながら読んでいました。
ダイレクトに二人を見た綾ちゃんのショックが伝わってきて、同情すら湧いてきました。

案の定、麻生さんは既婚者で、そういうこともあるんだというパターンでしたが妙にリアルなのが余計に辛かったです。

実は同時期に、綾ちゃんの亡くなった双子の弓の彼氏、村瀬くんも気になり始めるのですが、彼は弓のことが忘れられずにいました。
毎年命日に1時間だけ会ってたのですが、もう止めようと二人は決意します。

村瀬くんのシーンは印象に残っていて、部屋のいたるところに弓が生きていた証拠を残したまま、ずっと過ごしていました。

綾も村瀬くんもそうですが、人は何かに縋ってないと生きられない儚さを持つ動物なんだと感じさせられます。心を持つゆえにですかね。

②銀紙色のアンタレス

主人公の16歳の真くんが一夏の恋をする話です。

おばあちゃん好きの彼は、夏休みにおばあちゃんの家に行きます。
いつものとおり海で泳いでいると、赤ちゃんを抱いた一人の女性と出会います。

その女性はおばあちゃん家の隣の家のたえさんです。どうやら夫婦間のトラブルで一旦実家に戻ってる様子でした。
真くんはたえさんに一目惚れしましたが、同時期に遊びに来てた幼馴染の女の子から告白されます。

これも辛くて、真くんが女の子を振るのですが、真くんもたえさんに振られてしまいます。

この思春期特有の見ているポイントが非常にリアルで良かったです。
真くんが幼馴染の女の子を「女」と意識する身体の部分の描写や、真が子供ながらも女性の儚さに惹かれる描写などが特に。

淡いひと夏の恋の儚さが伝わってくる物語でした。

③真珠星スピカ

主人公の高校生みちるちゃんの日常のお話。

みちるちゃんはお母さんが亡くなる前から高校でクラスの女の子からいじめを受けてて、それが打ち明けられないまま、母親が亡くなりどうしようもない状態でした。

お母さんが交通事故で亡くなった後日、みちるちゃんは家でお母さんの幽霊がみえるようになりました。
お母さんが亡くなってから塞ぎ込むことがあったけど、幽霊で見守っててくれるおかげで彼女はすごく安心していました。

いじめのきっかけは担任の先生兼隣の知り合いだったことです。
なまじ女の子からすると大人の男性はかっこよく見えるわけですから、嫉妬対象としてみちるはいじめられてました。

みちるちゃんには同情しっぱなしだったのですが、いじめの解決方法がファンタジーで微妙でした。
今までリアルな話だったのに、いきなり幽霊というファンタジーで、かつ「こっくりさん」でいじめ問題を解決したのがどうしても気になってしまったのが理由です。

気になるところはいくつかあったのですが、それでも人間の描写は良かったです。
一番印象的だったのは、みちるちゃんがいじめる加害者をくだらないと頭の中では下に見ていたところの描写です。

新春期ならではの大人びた価値観がリアルに描かれていて、読んでいて面白かったです。

④湿りの海

沢渡という男性が主人公です。
妻に浮気されて離婚し、子供と一緒に恋人過ごすためにアメリカに行かれて、放心状態でした。
冒頭でも彼はずっと二人を連れ戻したい夢を見ていて、切なく悲しい日々を送っていました。

そんな時に、隣にシングルマザーの船場母子が引っ越してきて、いろいろあって週末は彼女たちと会うようになります。
しかしその後に、船場さんが子供に虐待しているという騒ぎが起こってから、彼女たちは沢渡の前から姿を消しました。

なんとも切なかったのですが、主人公はその二人を自分の元妻と子供に置き換えて見ていたのが明らかです。
その描写もお上手でしたし、主人公の沢渡と船場母子の孤独の伝え方が印象的です。

そのあとどうなったかわかりませんが、結局またも置いてかれた沢渡はずっとそこに佇んだまま日々を過ごしていかないといけないことに切なさを感じました。がんばれ…

⑤星の随に(まにまに)

想くんという小学四年生の子供が主人公です。

家族は両親が離婚して、新しい母がやってきて弟の海くんができています。
関係は良好だったのですが、新しい母親が育児のノイローゼで、想くんが学校から帰ってきても家のドアのストッパーを外してくれない状態でした。

確実に虐待の域に入ってる状態なわけですが、ちょうど通りがかったおばあさんに助けてもらって、毎日ストッパーがかかっている時間帯だけ家にかくまってもらっていました。

ある日おばあさんが老人ホームに行くことになったのですが、想くんのために想くんの両親に話してくれたおかげで、その環境を正してくれました。

一番印象的だったのは想くんが前の母親を恋しがるところです。
小学四年生だったら恋しがるだろうし、どうして両親が別れてしまったのかを理解はできても理解したくない年頃だろうなというところが非常にリアルです。

辛い話でしたが、最後はようやく本当の星が見えたような、そんな短編でした。




まとめ

個人的にはそこまで好きな部類ではなかったのですが、それでも著者の描写の旨さを感じる作品でした。

どちらかというと短編集でいったら「新しい星」のほうが好みだったかもしれません。

気になる方はぜひ一度読んでみてください。

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