火車(宮部みゆき)のあらすじと感想|賛否両論のラストシーン

火車(宮部みゆき)のあらすじと感想|賛否両論のラストシーン

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「火車」(宮部みゆき)とは

「火車」とは、著者の宮部みゆきが1992年に執筆した社会派ミステリー小説です。
映画・ドラマ化もされたほどの有名作で、第108回直木賞の候補作です。

なぜこの作品が直木賞とれなかったのか不思議でしょうがないのですが、恐らく他の候補作のクオリティが高かったんだろうなと想像します。
ちなみにこの時の直木賞受賞作は出久根達郎の「佃島ふたり書房」です。

今回は「火車」について感想を語っていきます。

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「火車」のあらすじと登場人物

あらすじ
休職中の刑事、本間俊介は遠縁の男性に頼まれて彼の婚約者、関根彰子の行方を捜すことになった。

自らの意思で失踪、しかも徹底的に足取りを消して――なぜ彰子はそこまでして自分の存在を消さねばならなかったのか?
いったい彼女は何者なのか?

謎を解く鍵は、カード社会の犠牲ともいうべき自己破産者の凄惨な人生に隠されていた。山本周五郎賞に輝いたミステリー史に残る傑作。

26歳天涯孤独の女性を追う

この物語は、男と婚約してた26歳の女性(関根 彰子)が、幸福の真っ只中なはずなのにもかかわらず失踪してしまったので、彼女の足取りを追う話です。

今回彼女を調べるのは休職中刑事の俊介で、依頼人は妻の従兄弟の息子です。
彼から話を聞くと、どうやら失踪した前に彼女のクレジットカードを作ろうと知人に審査をお願いしたところ、彼女には「自己破産」していた過去があることを知ります。

彼女にそのことを聞いた途端、真っ青になって次の日には行方知れずになってしまった、という流れです。

最初はただの失踪事件だと思ったのですが、刑事の俊介が調査していくにつれ、彼女の正体がだんだんと明らかになっていく物語の展開が鳥肌ものでした。

以下登場人物をご紹介しますが、この作品は一切の情報を入れないほうが楽しめると思います。

登場人物

この作品はネタバレがすぎると面白くなくなるので、冒頭で登場していた人物のみにご紹介しています。

本間 俊介(ほんま しゅんすけ):42歳の捜査一課の刑事。職務中に片足を打たれてから引きずって歩いている。休職中
本間 千鶴子(ほんま ちづこ):俊介の妻。居眠り運転の衝突事故で亡くなった
本間 智(ほんま さとる):10歳の息子。実は養子

井坂 恒男(いさか つねお):本間家の家政夫。

栗坂 和也(くりさか かずや):千鶴子の従兄の子供。彰子の婚約者
関根 彰子(せきね しょうこ):26歳。和也の婚約者。ある日突然失踪した

碇 貞夫(いかり さだお):俊介の同僚。捜査一課の刑事



「火車」の感想(ネタバレあり)

1992年という約30年前の作品ですが、今読んでも全く色褪せない名作ミステリーです。
実は読むのが2回目なんですが、結末がわかっていても一気に読んでしまうほどめちゃくちゃ面白かったです。何度鳥肌が立ったことか。

大変良かったポイントは以下です。

・物語の構成が抜群に上手い
・ミステリーだが社会的な問題にも切り込むところも良い
・ラストが一番良い

以下より詳しく語っていきます!

なぜ女性は失踪したのか?

この物語の最大の謎は「なぜ自己破産したという過去を知られただけで、失踪したのか?」というものです。
たしかに当人的には知られたくない過去の恥のような印象を受けますが、ただそれだけで婚約者の前から姿を消すものでしょうか?

当初は刑事の俊介もそう考えて、とりあえず彰子(失踪した女性)の勤め先である今井事務機から調べます。
そこでは履歴書を借りて他の勤め先にいくつか電話調査を行うのですが、全て関根彰子という人物が働いていた形跡はありません。

履歴書が全て嘘だとわかった後、自己破産の手続きをした弁護士事務所でも聞き込みをするのですが、そこで重大な事実が発覚します。

関根彰子ではない?

弁護士に関根彰子の写真を見せたところ、この人は知らない人間だと言われます。
つまり、俊介の親戚である和也と婚約していた「関根彰子」は自己破産していた「関根彰子」ではないということになります。

ここが一番鳥肌が立ったのですが、この時点でまだ物語の前半戦でした。ここから俊介の名も知らない女性の調査が始まります。
(以下、”謎の女性”というふうに呼びます。)

だんだんと姿が見えてくる”謎の女性”

俊介たちが調査をしていくうちに、どんどん”謎の女性”の正体がわかっていきます。

そこには彼女の壮絶な過去がありました。
なぜ彼女が「関根彰子」に成り代わったのが理由が全てわかった瞬間、非常に辛かったです。
過去についてはぜひ本書を読んでほしいので書きませんが、どこにも逃げられない彼女の環境が悔しかったです。

特に上手いなと思ったのが、前半で「自己破産」についての説明をして布石を敷いていたところです。
”謎の女性”の過去にも「自己破産」が絡んでくるのですが、自己破産の申告制度がうまく機能せず、見事に第三者に喰い物にされているさまが描かれていました。いや本当に怖すぎる。

とある理由で”謎の女性”が父親を探している場面で、その当時の旦那さんが「彼女を浅ましいと思った」と言っていた時、どこまでも他人事で彼女の表面しか見ていない男だとひしひしと感じました。

誰も守ってくれない、自分一人しか頼れない絶体絶命の状況の彼女に同情しない人はいないと思います。
だからと言って彼女の罪が消えるわけではありませんが、ラストにかけての怒涛の真実は非常に印象的でした。

結局、物語のラストはどうなったのか?

私がこの作品の良さをより際立てていると感じたのは「物語のラスト」です。

刑事の俊介がいろいろと調査し終わり、ようやく「関根彰子」に成り代わっていた謎の女性と会えるチャンスが来た場面です。
”謎の女性”が、俊介が接触した女性と喫茶店で待ち合わせた時、俊介たちはその席の近くで待機します。

ずっと探していた謎の女性に会ったら何を話そうか、何を聞こうか、俊介がずっと頭の中で考えます。
そして、”謎の女性”が俊介たちの前に姿を現した時、保が彼女の肩に手を置く瞬間で、物語は幕を閉じます。

恐らくこのラストには賛否両論があると思いますが、私はこのラストが何よりも一番良かったです。
”謎の女性”がその後どうなったのか、そして彼女が手にかけたであろう死体の頭はどこに埋めたのか、本当に彼女が殺人を犯したのか。

すごく気になることは多々ありますが、その後を引く余韻がいつまでも頭を離れなくて、すごく気持ちがいい読了感を醸し出していると思います。
もしかしたら、最後の最後までずっと姿を現さなかった謎の女性が実在していたこと、見つけられたことに俊介と共に嬉しくなったのかもしれません。

どちらにせよ、最後に感じる余韻がこの作品を際立たせていると言っても過言ではないと思います。



余談:「火車」に登場するテーマ

この物語のテーマは「消費者金融」です。

ミステリーの要素を持つだけではなく「消費者金融」の問題をも切り込んでいくので、非常に考えさせられる作品でもあります。
特に子供よりも大人が読むと、消費者金融の怖さをより感じます。

せっかくなので、テーマに沿った感想も語っていこうと思います。

自己破産

日本社会では、「破産法」といって借金を背負ってる人(自己破産)が経済的に相手に返せない時に裁判所に申し立てをして、免責(支払いを免除)できる法律があります。
それを自己破産の申立てとも呼びます。

破産(はさん)は、一般的には財産をすべて失うことを言うが、法律上の意味での破産とは、債務者が経済的に破綻することで、既に弁済期にある全ての債務が債権者に対して一般的・継続的に弁済することができない状態にあるときに、本人などの申立て権者が裁判所に申立て、裁判所が選任する破産管財人に債務者の財産を包括的に管理・換価、また総債権者に公平に分配してもらうことで、経済的破綻状況から離脱することをいう。

wikipediaより

申立てには、免責など含めていろいろとメリットがあるんですが、その一方でデメリットもあります。
「火車」の中でも触れていましたが、金融機関でのブラックリストに載ってしまうデメリットがあります。婚約者の和也にバレていたのはそのせいですね。

しかし作中で”謎の女”の過去でもあったとおり、もし親族が破産したとしても申立てをしなかったら自己破産になりません。
子供には支払い義務責任はいきませんが、世の中には法律を度外視する人間がいます。
そのせいで”謎の女”は借金元に追われるようになったという、悲しい末路でした。

貨幣社会の闇

作中で「関根彰子」を手助けしていた溝口弁護士が、現代のクレジットやローンの構造に関してかなり熱弁していたのですが、これは宮部さんが実際に弁護士を取材した時に言った言葉だそうです。
すごく考えさせられる言葉だなと思ったので、引用します。

「常識的に考えたなら、二十歳かそこらの若者に、一千万も二千万も貸す業者がいること自体おかしいでしょう。しかし現実にはいるんです。それは、この業界自体が、壮絶な自転車操業をしているからなんですよ。だから、貸して、貸して、貸しまくる。最後にババを引くのが自分のところでなければいい、という考え方だからできるんです。
事実、銀行でも信販会社でもサラ金でも、大手はめったにババを引かない。今お話したような構造のなかでは、ピラミッドの上の方にいる業者はスカをつかまないでいいようにできているんです。
そして、ツケは下へ下へと回されていく。そういう重しに、債務者がーーー転がり落ちるに連れて借金が重なってゆく多重債務者がくくりつけられて、二度と浮かび上がることのできないところまで沈んでゆく」…(p.187)

これは話の一部でしかありませんが、本当に恐ろしい仕組みになっていることがわかります。
現代では誰もが簡単にお金を借りることができます。利子さえ払えばお金は返せますが、その利子率が異常なのです。

だからといって消費者向けの金融業界をなくすことはできず、これからも消費者側が気をつけていかなければいけない問題です。
ちなみになぜなくすことができないかというと、毎年80兆以上のキャッシングがされているので、国としても一大事業なわけです。
.クレジットカードショッピング信用供与額・信用供与残高を参考

作中でも溝口弁護士が言っていましたが、日本に足りないのは金融の教育だと思います。
社会で仕組み化されている以上、自分で自分の身を守らないと生きて残れない時代がやってきたなと身に染みて感じるテーマでした。



まとめ

気づいたらめちゃくちゃ長くなってしまいました。ここまで読んでくれた方、ありがとうございます!

宮部さんの小説は、基本的に何か考えさせられる作品が多いので、読んでいて興味深いものばかりです。
今作も何度読んでも面白い作品なので、ぜひいろんな方に読んでほしいなと思いました。

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